夏の出来事  【プール編】  2
「心配しなくてもいいよ、里緒」

 そう言って笑ってやると、里緒はほっとしたように笑顔を見せた。

 その鋭さを自分の事にも使って、出来れば自分がどれ位注目されているか自覚して欲しい所だが、

まさか、” お前は数多の男達の欲望の対象になっている ” とは、さすがに言えない。

「涼兄、あたし何か飲み物買ってくるね」

「え? ああ、じゃあ俺も一緒に・・・・」

「一人で大丈夫だよ。行ってくるね」

「あっ・・・・ちょっと待っ・・・・里緒!」

 ついて行こうとしたが失敗した。(泣)



 やばい。非常にやばい。

 ここで離れてしまったら、欲望に目がくらんだ男や女が・・・・・・・・・

「あのー、宜しかったら、一緒に泳ぎませんか?」

・・・・・・・・・・来た。(大泣)



 案の定、里緒が俺から離れた途端にわらわらと女が寄って来る。

「いや、悪いけど連れがいるから・・・・」

 と断ると、すかさず

「あの、でも、さっきの娘、妹さんでしょ?

妹さんは妹さんで楽しく遊ぶでしょうから、ね? あたし達と♪」

とツッコまれた。

 まさかこんな所で里緒の俺に対する呼び名がアダになろうとは・・・・っ!!(号泣)

「いや、俺は本当に遠慮するよ」

「えー、そんな事言わないで」

 ・・・・・・・・メチャクチャしつこく食い下がってくる。どうにかしてくれ。

 離れようとしない彼女達を引き連れながら、買い物に行った里緒の姿を探そうと売店の方へと向かった

俺の目に、とんでもない光景が飛び込んできた。

「なぁ、いいだろ? 俺達と泳ごうよ」

「何ならプールじゃなくて、違う所で遊んでもいいよ?」

「君、ホントに可愛いね。高校生?」

「や・・・、やめて下さい。あたし一人で来てる訳じゃないですから、お断りします」

 あろうことか、こちらもわらわらと砂糖に群がるアリのように、里緒の周りには不埒な輩が!

「またまたー。だって彼氏じゃなくてお兄さんでしょ?兄妹でいてもつまんないじゃない」

「そうそう、俺達と楽しい事しようよ♪」

 ・・・・・・・ここでも ” 兄 ” 発言が・・・・・・・っ!!!(怒)



「いっ、いやっっ! 触らないでっっ!!!」

「!?」

 その時、一人の男の手が里緒の腰に回った。

「ねぇー、妹さんは放っといて早く・・・・」

「・・・・・・・・・せ」

「え?」

「離せっつってんだろ!! 大馬鹿やろうども!!!」

「・・・・・・・なっ・・・・・」

 キレた俺の剣幕に、さすがに女共は何も言わなくなってしまい、掴んでいた俺の手をそろそろと離し

目を見開いたまま放心している。

 その声が聞こえたのか、里緒もその周りの人間も俺に気付いたようだ。

「涼兄!!!」

 涙目になっている里緒の所へ近付いて行くと、男共は動きを止めたまま硬直した。

 俺の形相に鬼気迫るものを感じたらしい・・・。

「・・・・その手を離せ・・・・」

「・・・・は・・・・はい・・・・・」

 ダークなオーラを背中にしょって (?) 俺がそう言うと、青褪めた顔をした男は里緒の腰に回していた手を

引っ込めた。