Happy Wedding 2
教会の中に入ってみると、祭壇の上にある大きなステンドグラスの窓から、きらきらと陽が差し込んで、とても
幻想的な光景が広がっていた。パイプオルガンの綺麗な音色が緩やかに流れている。
「こちらへどうぞ」
ヴァージンロードの向こうには、とても優しそうでおだやかな顔の神父様が立っていて、あたし達を
うながしてくれた。
「里緒、これを」
声に導かれて進もうとしたあたしの頭に、涼兄が何かをふわっとかけた。
「・・・・綺麗・・・・」
いつの間に用意していたのか、それは、可愛らしい花を沢山あしらった純白のヴェール。
「良く似合ってるよ」
ヴェールをかぶったあたしに向かって、涼兄が嬉しそうに微笑んでくれる。あたしは赤くなった顔を隠すように
少しうつむいたまま涼兄の左腕に右手を回して、それから2人でゆっくりとヴァージンロードを歩いてゆく。
もちろん左手には先程のブーケをしっかりと持って。
祭壇の前に立つあたし達に向かって、神父様が宣誓文を読み始める。
「嘉納亮、あなたは病める時も健やかなる時も・・・・・・・・・」
その声を聞きながら、あたしはまた涙ぐんでしまって、涼兄が宣誓した後、あたしの番になったけど、涙声の
ままで少しかすれてしまった。
「それでは指輪の交換を」
その声に涼兄の方を見ると、これもいつの間に用意したのか、綺麗なプラチナのリングが手のひらに
乗せられていた。そしてそれをお互いの薬指にはめていく。自分であつらえた覚えはないのに、そのリングは
あたしの指にぴったりと収まった。
「では、誓いのキスを」
あたしのヴェールを上に持ち上げて、涼兄が深く優しく口づけてくれる。
「神の御名において2人を夫婦と認めます」
神父様にお礼を言って教会を後にしたあたし達は、再び車を走らせる。
何だか、まだボーッとして実感が湧かないけど、あたし、涼兄のお嫁さんになったんだ・・・・・。
「ホテルを予約してあるから、今夜はそこに泊まるよ」
うわの空で外の景色を眺めていたあたしに、涼兄が言った。
「えっ? で、でもあたし着替えとか持ってないし、第一お父さん達に何も言ってないよ?」
「大丈夫。父さんと母さんには事前に了解を得ているから。式は2人だけでって言ったら、少し残念がって
たけど、そう決めたのならってOKしてくれた。それに着替えも心配いらない。明日の朝には家に戻る
から。今回は急だったからハネムーンはまた日を改めてって事になるけど、今日が事実上の
新婚初夜だ」
「!!!」
その言葉にあたしは真っ赤になって固まってしまった。涼兄とのHは初めてじゃないけど、それでも
『初夜』 という言葉にドキドキしてしまう。
それにしても、あたしの知らない所でこれだけの事が進んでいたなんて。驚きの連続に言葉も出ない。
「ああ、それから、夫婦になったんだから ” 涼兄 ” っていうのも、もう卒業だな」
「えっ? じゃあ、なんて呼べば・・・・?」
「・・・・実は昨日、俺は鈴原の籍を抜けて、正式に嘉納姓に戻ったんだ。だから今の俺の名前は
嘉納亮。亮で構わないよ」
「亮・・・・さん・・・・?」
そういえば教会でも神父様が涼兄の事を嘉納亮と呼んでいたっけ・・・・。
「・・・・もうお兄さんじゃなくなっちゃうんだね。何だか少し寂しいよ・・・・」
「里緒・・・・。大丈夫だよ。お前には遠く離れているとはいえ本当の兄さんがいるし、何よりこれからは
俺が夫としてお前の側に居るんだから。それこそ一生、お前から離れる気は無いよ。絶対にね」
少し落ち込んでしまったあたしに、涼兄は優しく笑って言ってくれた。
「涼兄・・・・。ありがとう・・・・。大好きだよ・・・・」
「もう涼兄じゃないって言ったろ? それよりお前は今夜の事を心配した方がいいな。俺はもう遠慮はしない
から、覚悟しておいてくれ」
「!? ななな、何て事言うのよっ!? もうっエッチなんだからっっ!!」
涼兄のあまりにも恥ずかしい台詞に思わず大声を上げてしまう。忘れていた事実を思い出してしまった・・・。
改めて認識したあたしは、まるでゆでダコのようだ。
「そうそう、その調子。里緒は元気なのが一番だよ。それでこそ俺の奥さんだ」
・・・・涼兄・・・・。
本当にありがとう・・・・。いつもあたしの事を考えててくれるんだね。うん、大丈夫だよ。だって、これからは
いつだって涼兄と一緒にいられるんだから。
「ありがと、亮さん。末永く宜しくね」
丁度、赤信号で車が止まった時、軽口を叩いてからかってくる涼兄のほっぺに軽くチュッとキスをした。
涼兄はちょっと驚いていたが、すぐに嬉しそうな顔であたしに微笑んでくれた。
あたしと涼兄の指には、プラチナリングが陽を浴びてキラキラと輝いている。
幸せになろうね、旦那さま♪
END