Happy Wedding 1
短大の卒業式を終えた後の、とある日曜日。涼兄がニッコリと笑いながら言った。
「里緒、久しぶりにドライブに出掛けないか?待ってるから支度しておいで。それから、ちょっとだけ
おめかししてくれ」
ただドライブに行くだけなのに何故おめかしなのか。ちょっと疑問に思いながらも、あたしは着替えた。
少し胸元の開いた淡いブルーのロングワンピース。お気に入りの一枚である。薄くメイクを施して
準備万端!
仕度を終えたあたしが玄関を出ると、涼兄はもうカーポートから車を出して待っていた。
「綺麗だ。とっても可愛いよ」
じっとあたしを見てそんな事を言うものだから、何だかくすぐったくって思わず真っ赤になってしまう。
涼兄はそんなあたしを見てくすくすと笑いながら助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ、お嬢さん」
「あ、ありがと・・・・」
・・・・ますます恥ずかしい・・・・。
「ねぇ、涼兄、一体どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
車を走らせる涼兄に問い掛けたが、教えてくれようとはしない。見れば、涼兄も普段はあまり着ない
スーツを身に纏っている。なんで?さっぱり分からない。
あれこれといろいろ考えている内に、涼兄は一軒のフラワーショップの店先に車を止めた。
「里緒、ちょっと待っててくれ」
そう言うと涼兄は店内へと入っていき、お店の人と何やら話した後、買い求めたらしい花束を持って
戻ってきた。
「お待たせ」
「・・・・どうするの?その花束」
それは、白い薔薇の花を中心にかすみ草やオンシジュームで綺麗にまとめられた素敵なブーケだった。
「秘密だよ」
あたしの問いに、また答えてくれない。ますます訳が分からないあたしをよそに、涼兄はそのブーケを
後部座席へ置くと再び車を走らせた。
それから一時間程走っただろうか。車は街中を離れて静かな森の風景が広がる方へと向かっていた。
やがて、森の奥にこじんまりと建っている建物の前で車は止まった。
「さぁ、着いたよ」
「・・・・教会?」
それは小さいながらも厳かな雰囲気を醸し出し、周囲の景色に溶け込んでいる可愛らしい教会だった。
車を降りたあたしに涼兄は言った。
「今日、ここで結婚式を挙げるんだよ」
「誰と誰が?」
「お前と俺が」
言われた言葉に、一瞬頭の中が真っ白になり黙ってしまったあたしに、涼兄は続けた。
「神父さんにお願いしたんだ。2人だけでしたいって。・・・・愛してるよ、里緒。俺と結婚して欲しい」
そう言った涼兄の顔がだんだん歪んで見える。
本当に? 本当にあたしを選んでくれるの? 幸せで、どうにかなりそう・・・・。
「こら、花嫁さんが泣いたら駄目だろう?」
「だ・・・・だって・・・・」
嬉しくて涙が止まらないよ・・・・。
「里緒、まだ、肝心な言葉を聞いてないぞ? プロポーズの返事は?」
涼兄が優しく微笑みながら、あたしの頬を撫でる。
「・・・・喜んで・・・・っ」
答えたあたしを、涼兄は強く抱きしめて耳元で囁いた。
「愛してる。世界中で一番、誰よりも」