Temptation 3
「あなた、里緒と一緒にお酒飲んだの初めてでしょ?」
「まぁ・・・・そうだけど・・・・・それが何?」
「あたしもあの娘にあんな酒グセがあるとは思わなかったのよね。
里緒に面白がって初めてお酒を飲ませたのはお父さんなんだけど、あの時は大変だったわぁ。
お父さんもジョリーもあたしもキス攻めに遭わされて、おまけに服も下着もポイポイ脱いじゃって。
お父さんったら慌てるやら赤くなるやらで、まぁ自業自得なんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でね、その時に里緒にきつく言っておいたのよ。絶対に外でお酒を飲んじゃ駄目よって。
それが例え友達どうしでもね。里緒はちゃんと守ってたわ。だから心配しなくても大丈夫よ」
母は何でもお見通しだった。
恐るべし・・・・・・。
「・・・・・・・で? それは分かったけど、何で俺の所に酒がくる事になったの?」
俺が肝心な事を聞くと、明瞭かつ嬉々とした明るい声で返ってきた母の言葉は。
「あらぁ、だってあたし達だけ被害に遭うのは不公平じゃない。ここは一つあなたにもと思って。
もっとも、亮にとっては嬉しい誤算かしら?
ピチピチのプリプリでラブリーな奥さんにあんなに情熱的に求愛されちゃったら、夫としては思わず
頑張っちゃうじゃない? だから休日前限定。どお?気に入ってくれた?
愛する子供達の新婚家庭へ、あたしからのささやかなプレゼント。ほほほほほ♪」
「・・・・・・・・・ははははははは・・・・・・・・・・・・・・」
頑張るって、母さん・・・・・。
確かにその通りだけど。(笑)
どちらかというとささやかなプレゼントというよりは、遠い場所へと離れてしまった俺達への
小さな報復という気がしないでもないけど・・・・。
「という訳で、里緒のお酒には充分注意してあげてね。まぁ、あたしが言うまでもないと思うけど。
なんたって実践済みでしょ? (笑)」
「・・・・・・忠告ありがとう。くれぐれも気をつける事にするよ」
「亮さん・・・・・? 誰から電話・・・・?」
嵐のような母との会話を終えると、寝ぼけまなこで里緒が問い掛けてきた。
「ああ、ごめん、起こしちゃったか。母さんからの電話だったよ。
それより里緒、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいか?」
「なあに?」
「お前が酒を飲んだのは、今回が2度目なのか?」
「うん、そうだけど」
「でも、大学の時とか飲み会に誘われたりしただろう?その時どうしてたんだ?」
「行っても全然飲まなかったの。付き合いで取り合えず参加するだけだったから。
それに初めてお酒を飲んだ時、お母さんは凄い形相で飲酒厳禁て迫ってくるし、お父さんも
頼むから飲むなって泣きながら訴えてくるし、あたしも別に好き好んで飲みたいとは思わなかったし」
・・・・・・・なるほど。
娘のツボを的確に突いている。里緒には効果てきめんだっただろう。
俺の居ない間、よくぞここまで守ってくれたと改めて感心してしまった。
「里緒、俺とも一つ約束してくれないか?」
「何を?」
「今後一切、俺以外の人間とアルコール類は飲まない事。もちろん父さんや母さんともだ」
「・・・・・・うん。いいけど、どうして?」
「・・・・・・強いて言えば、俺の心の平安の為かな。(笑)」
そしてお前の為だ。
「??」
里緒は訳が分からないといった顔でキョトンとしていた。
「とにかく、絶対に約束を守る事。いいね?」
「うん、分かった」
柔らかな体を抱きしめながら俺がそう言うと、細い腕が背中に回されてぎゅっと抱き返される。
極上の笑顔と共に。
「ところで里緒、夕べ酒を飲んでからの事、憶えてるか?」
「ううん、全然」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
禁酒決定・・・・・・・・。(泣)
END