Temptation  1
 うららかな土曜日の午後、それは突然やって来た。



「・・・・・何でいきなりコレなんだ?」

「・・・・さあ・・・・でも亮さんに、ってカードが一緒に入ってたから・・・・・」

 目の前にあるのは実家の母から送られてきたひとつの小包み。

 中を確認すると、一升瓶入りの酒だった。

「えーっとね・・・・・・地方特産の地酒で、幻の酒って言われてるんだって。たまたま知り合いの人が

送ってくれたから、それをくれたみたい」

 添えてあったカードを見て里緒が言った。

「まぁ、くれるって物は貰っておくけど・・・・」

 何の前触れもなく送られてきた一本の日本酒。

 差出人が母だという事が妙に気になった。

「あ、それからね、飲むのは絶対休みの前日にしなさいって書いてある」

「・・・・何でだ?」

「さあ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」



 ますます気になる・・・・・・・・。



 一応礼を言っておこうと母へ電話をいれたが留守電になっていて、しかもその内容が旅行中だから

などというものだった。

 メッセージにわざわざ旅行に行くと入れたりしたら、泥棒に入って下さいと言わんばかりだと思うのだが・・・・。

 変な所で間が抜けている母に苦笑して、俺はそのまま電話を切った。

「ま、後でもいいか。帰ってくるまで連絡はとれないだろうから」

 などと楽天的に考えていた俺は、その時、後にとんでもない事になるなどとは思いもしなかった。



「ねぇ、亮さん。送ってもらったお酒なんだけど、ちょうど今日は土曜で明日はお休みだから、飲んでみない?」

「ああ、そうだな。幻って言われると、ちょっと興味あるし・・・・。開けてみようか」

「じゃ、すぐ用意するね」

 夕食の席で里緒に勧められて酒を飲んでみる事にした。



「へぇ・・・・結構美味いな。口当たりもいいし」

 さすがに幻と言われるだけの事はあると思いながら飲んでいると、俺の様子をじっと見つめる里緒と

目が合った。

「里緒も飲んでみるか?」

「えっ?いいの?」

「ああ、お前ももう二十歳になったんだから構わないよ」

「ホントのホントにいいの?」

「あ・・・・ああ・・・・?ホントにいいよ・・・・?」

「じゃあ、いただきます」

(そういえば里緒と飲むのは初めてだな・・・・)

 あまりにも念を押してくる里緒に疑問を覚えながらも、俺は彼女のグラスに酒をついでやった。





「・・・・・・・・里緒・・・・? お前・・・・大丈夫か・・・・・?」

「んふふふふー、何がぁ?」

「いや・・・・・あの・・・・・・」

 30分後、俺の目の前には酔っ払って完全に出来上がった里緒の姿があった。

いや、それだけならまだ良かったのだが・・・・・・・。

「ジョリーっ、ちゅーーっ♪」

「ばふっ、ばふっ(汗)」

 思わぬ所でキス魔である事が判明・・・・・。

(未成年だって大学時代に飲み会が無い訳は無いだろうし・・・・。よく今まで無事だったな・・・・)

 俺がまだ家に戻っていなかった頃の事が急に心配になってくる。

 今そんな事を言っても、過ぎた事だからどうしようもないのだが。

「きゃははははっ!ジョリーーっ♪」

「ばふっ、ばふっ(大汗)」

 両腕でがっちりと抱きしめられたジョリーは、焦りながら俺に助けを求めてきた・・・・・・。