嘉納亮・心理的日常 2
「ごめーん、亮さん、タオル持ってきてくれる?」
じっと見つめていた俺に、彼女が声を掛けてきたので返事をする。
「ああ、今取ってくるよ」
もちろん自分の内が今どんな状態になっているかなどとは、おくびにも出さない。流石だ、俺。(笑)
「夏とはいえ、そのままだと風邪をひくからな。早く着替えておいで」
俺はそう言いながら彼女にタオルを手渡した。
というのは建て前で、どこで誰が見ているか分からない、他人に彼女のあんな姿を見せてなるものか、
というのが本音だ。俺がそんな事を思っているとは知る由も無い彼女は、
「うん、そうする」
と、素直に言う事を聞き、家の中へと上がってきた。
「・・・・ジョリー、気を付けなきゃダメだぞ?」
庭でまだ駆け回っているジョリーに声を掛けたが、俺の事より今は遊びに夢中らしい。やれやれ・・・・。
休日の食事はいつも俺が作るのだが、最近料理を覚えるのが楽しくて仕方が無いらしい彼女が、今日は
キッチンに立っていた。もちろんフリフリエプロンである。といっても仕事中とは違い、色は淡いピンク。
楽しそうに手を動かしている様子を見ていると、改めて2人で居られる幸せを噛み締めてしまう。
愛らしいエプロン姿に我慢が出来ず、一度、素肌に着けてくれと言った事があった。
・・・・男のロマンである。
彼女は真っ赤になりながらも、こくんと頷いて全裸の上にエプロンだけを纏ってくれた。そうなれば、
一も二も無く愛の営みへと移行してしまうのが世の常というもの。キッチンで、といういつもとは違う
シチュエーションで、エプロン一枚という状況に俺達は時も忘れて燃え上がった。
終ってみれば、彼女も満更でもない様子。こういう機会が増えるかも、とその時俺は内心思ったのだ。
まがりなりにも健康な成人男子であるならば、愛する人を目の前にすれば、その全てが欲しくなるのは
当然だろう。俺もその辺は人並みだ。
しかし彼女は、6つという年齢差のせいなのか、それとも育った環境のせいなのか、どうも俺の事を愛情と
同じ位の度合いで尊敬&憧れの念を持って見ている節がある。以前、彼女の友達から、彼女の俺への
評価を耳にした事があるのだが、頭が良くて、スポーツ万能で、優しくて、格好良くて、etcと多大な賛辞の
応酬だったとか。
俺は別に非の打ち所のない完璧人間という訳ではないのだが。あばたもえくぼに近いのかも知れない。
そんな彼女の前で、頭の中はいつでもお前の事で一杯だ、的なそぶりは決して見せない。
男の見栄だ。
まぁ、彼女も俺がいつもそんな事ばかり考えているとは全然思っていないだろうから、それでいいのだ。
あえて欲望の淵を見せる必要は無いのだから。
もし・・・・彼女の前で己の全てをさらけ出す時が来るとすれば、それは、彼女を繋ぎとめる究極の手段に
なるだろう。一生、愛しい存在を離さぬように・・・・。
そして俺は今日も愛する妻と自分の幸せの為に、惜しみない愛情で彼女を優しく包み込むのである。
END