嘉納亮・心理的日常 1
「次の方どうぞー」

 彼女の明るい声が室内に響いた。いつ聞いても可愛らしい声だ。思わず顔がニヤケ・・・・もとい、

頬がゆるんでしまう。

 この医院の医師である俺の妻、兼、助手の彼女は夫の俺が言うのも何だがとても可愛い。

 メチャクチャ可愛い。何が何でも可愛い。とにかく可愛い。

 俺とは6つ違いであり、現在20歳だが、高校生と言っても通用する程である。というか、20歳には到底

見えないというのが正解だ。彼女が診察室で仕事をする時は真っ白なフリフリエプロンを着用するのだが、

これがまた、コスプレか?と思わずにはいられない程、よく似合っている。まるでメイドさんのようだ。

 しかもラブリーな。

 そんな感じだから当然と言えば当然のように、周りの男共が彼女を見てボーッとしてしまうのも無理は無い。

 ここに居るという事は患者な訳だから、そんな男共を蹴散らす訳にもいかず、俺は毎日ドキドキの連続

である。彼女、里緒は、そんな奴らの視線を知ってか知らずか、エプロンの下はミニスカートだったりする

のだ。・・・・・世間知らずというのは恐ろしい・・・・。

 自分の事にはこんな風に鈍感なくせに、俺の事になると、俺の周囲にいる女の子達の事がかなり気になる

らしく、たまに落ち込んでいたりする。

 そんな心配をする必要はミジンコ程の大きさも無いのに。(キッパリ)

 何しろ俺は、彼女がまだ物心がつくかどうかという頃から彼女だけを想い続けてきたのだ。心配する方が

おかしい。毎日毎日、これでもかという程、愛を囁いて、なおかつその愛をめいっぱい埋め込んでいるのに。

 いつ子供が出来てもおかしくない位だ。

 そんな彼女なものだから、この村に越してきて早速ご近所に挨拶回りに行った時も、会う人会う人皆に、

「あら、こちら妹さん?可愛いわねぇ」 とか、

「ご兄妹なの?宜しくね」 とか言われまくり、俺が、

「いえ、妻です」

と訂正すると、

「ええっ!?全然そんな風には見えないわぁっ」 とか、

「まぁ、まだ学生さんじゃないの?」 とか、

「・・・・冗談でしょ?」

などと、散々だった・・・・。まぁ、兄妹というのは半分当たっているから良いのだが・・・・。

 そんなこんなといろいろあったが、今では近所の奥様方とも仲良くなり、この地方の郷土料理を

教わったり、井戸端会議をしたりと、楽しくやっている。俺としても嬉しい限りだ。

 もともと素直で優しい彼女だから、当然うちの患者さんにも受けがいいのである。

 里緒は以前、俺に言い寄る女子高生に対して、とても心を痛めていた事があったが、そんな娘達は

どうでもいい俺にとっては、むしろ、彼女に対して多大な迷惑である熱い視線を送ってくる男共の方が

はるかに問題だ。

 本当に自分の事には疎い彼女だから、当然自分が俺以外から想いを寄せられているなどとは、

これっぽっちも思った事が無い。俺にとっては喜ばしい事だが、本人に自覚が無いという事は、

自己防衛もままならないという事である。

 まぁ、俺の目の黒いうちは、そんな不貞の輩から絶対に守って見せるが。

 もちろん白目になっても守ってやる自信はある。(ドキッパリ)




 休診日の彼女は、大抵俺達の愛犬であるジョリーと遊ぶ事が多い。

 少し広めの庭に芝生を敷いてあるので、そこでよくジョリーと戯れている。今日も彼女はTシャツに

デニムのショートパンツという格好でジョリーと遊んでいた。

 ・・・・本当に人妻には見えないな・・・・。

 夏のジリジリと焼けつく日差しを少しでも和らげようとしたのか、今日は打ち水も兼ねて、ジョリーに

シャワーよろしく少し高めの位置から水をかけたりしていた。俺のいるリビングからその様子が

見渡せるので、微笑ましい光景をしばらく眺めていると、突然里緒の大声がした。

「きゃあっ!! もうっジョリーってば何するのよー。ビショビショになっちゃったじゃないの」

 何事かと思い目を向けてみると、どうやらジョリーが彼女の手元にじゃれついたらしく、バランスを

くずした里緒は尻もちをつき、更にホースの水をまともに被ってしまったらしい。

 俺の目は彼女の姿に釘付けになってしまった。里緒の着ているTシャツは水分を吸って肌にぴったりと

張り付き、しかも中の下着がくっきりと浮かび上がってしまっている。

 な・・・なんて卑猥な格好を・・・・っ。

 俺は心臓がドクドクと脈打つのを止められなかった。体のラインを露にして髪の水滴をふるふると払って

いる妻の姿に熱いものが込み上げてくる。夫婦になったのだから少し落ち着け、とは思うのだが、

何しろ相手は惚れて惚れて惚れぬいた末にGETした最愛の女性なのだ。冷静でなどいられる訳がない。