春風にのせて 1
 青森へと赴く二週間程前、俺は急に思い立って亡くなった両親の墓参りに行く事を決めた。

 今まで現在の両親の手前、墓所が何処なのかさえ聞こうとしなかった俺が突然そんな事を言った

ものだから、母は少し戸惑っていたようだったが、すぐにその場所を教えてくれた。

「大丈夫だよ、母さん」

 自分でも何が大丈夫なのか理由も言えないが、俺の言葉に母は分かっているとばかりに

笑顔を返してくれた。

 初めて行く、両親の眠る場所・・・・。




「里緒、明日、墓参りに付き合ってくれないか?」

 最初は1人で行こうとしたのだが、思い直して里緒を誘った。彼女を、俺の妻になった女性を

見せてやりたいと思ったからかも知れない。

「お墓参り?・・・・あ・・・・ひょっとして、亮さんの・・・・・」

 里緒は盆でも彼岸でもない時期にという事で、思い当たったらしい。

「うん、分かった。明日ね?」

「ああ、ありがとう」

 問いに答えなかった俺に、それでもにっこりと笑ってOKしてくれた。聞きたい事は山ほどあるに

違いないのに。多分、俺を気遣ってくれたのだろう。

 彼女の優しさに、俺は胸が熱くなるのを感じた。




 母に聞かされた場所は、車で一時間程行った小高い丘陵地帯の頂上付近で、街並みが一望

できるとても見晴らしの良い所だった。さわやかな風が心地良く、麓を見渡せば街の向こうに海が

見えるその景色に、俺はしばし見惚れた。

 ・・・・わざわざこの場所を選んでくれたのだろうか・・・・。

 俺は改めて、育ててくれた両親に感謝した。ふと、傍らに居る里緒を見ると、何やら神妙な面持ちで

静かに俺の後をついてくる。おそらく、いつもよりも口数の少なくなっている俺に、どうしていいか

分からず戸惑っているという所だろう。

「里緒、こっちにおいで」

 俺は目的の墓所の前に立つと、気後れしているような様子の里緒をうながした。彼女はゆっくりと

近づいてきて俺の隣に並んで立ち、その場所を見下ろした。

「・・・・ここが・・・・?」

「そう、俺の本当の父さんと母さんが眠る場所だ」

「あたしの叔父さんと叔母さんなんだね・・・・」

「ああ」

 俺がそう告げると、里緒はやはり分かっていたらしく、それきり何も言わぬまま、

じっと前を見つめている。

 ふいに、里緒の瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。

「ごめんね・・・・っ、亮さっ・・・・本当は、後悔してるんでしょ? お父さん達の子供として・・・・

育った事・・・・っ、あたしの兄として育った事・・・・っ、ごめんねっ・・・・ごめん・・・・っ」

 里緒が・・・・そんな風に思っていたとは考えもしなかった俺は、驚いてしまった・・・・。

 彼女は彼女なりに辛い思いを胸に抱えてきたのだと、今更ながら気付いたのだ。

 俺は顔を手で覆ったまま泣き続ける里緒を強く抱きしめて・・・・。

 そして・・・・胸の内を全て語った・・・・。