ETERNAL SWEETHEART 3
「・・・・ソードブレイカーがあるのに、何故他の船なんか買わなきゃならないんだ?」
俺の問いにしばらく無言だったキャナルが、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「・・・・・・・・あたし・・・・・・・・・還ろうと思ってるの・・・・・・・・・」
「かえる・・・・・・・・・?」
一瞬、キャナルが何を言っているのか分からなかった。
”人” ではない・・・ ” 船 ” が・・・ ” 還る場所 ” ・・・。
言葉の意味を理解した俺は、耳を疑った。
「な・・・に・・・・言ってんだよ・・・・・・・・。お前っ・・・・・自分が何を言ってるか分かってんのかっ!?」
思わず声を荒げた俺に、キャナルは初めてこちらを振り返った。
「ケイン・・・・・・・もう、いい頃だと思うの・・・・・・・・・・」
「何がだよっ!?」
何故、今そんな事を言い出すのか。
船が・・・・・ロストシップが還る意味なんて一つしか無いのに!
キャナルは側まで近寄り真正面から見据える俺を一瞥すると、再びスクリーンを見つめた。
ヴンッと音がして、先程まで何もなかったそこに、キャナルはばあちゃんの墓のある丘を映し出す。
「・・・・・・・・アリシアと出会って、あたしは初めて感情というものに目覚めた。涙を流した。
ただの制御システムの筈なのに・・・・・・・。理解出来なかったわ・・・・・・・・。
だから・・・・・彼女が亡くなる前にあたしに託したあなたの側で、自分の中に芽生えたものが何なのか、
考えてみる事にした。
あなたは最初からあたしを慕ってくれて、心を開いてくれて・・・・。
あなたと共に過ごす日々の中で、あたしは大きく変化していったの。
でも、その感情を何と呼ぶのか知った時、もう側にはいられないって・・・・・思った」
スクリーンに向かったままのキャナルをじっと見つめる。
その横顔は、今にも消え入りそうだった。
とても、綺麗だと・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・教えてくれ・・・・・・。俺と一緒の時間の中で、どう変わったんだよ。・・・・どう・・・・思ったんだよ・・・・・」
「・・・・・それは・・・・・・・・・・・・。無理言わないで下さい・・・・・・・・・、マスター・・・・・・・」
その瞬間、俺は思わず叫んでいた。
「俺はっ・・・・・・ヴォルフィードに聞いているんじゃない!キャナルに聞いているんだっ!
マスターなんて呼ぶなっ!!」
「ケイン・・・・・・・っ」
故意に距離を置こうとするキャナルにカッとなった俺は、彼女を強引にこちらに向かせて詰め寄った。
すると、強張った表情のキャナルの瞳に涙が盛り上がっては零れ落ちていく。
「キャナル・・・・・」
「ケインの馬鹿っ!!どうして分かってくれないのっ!?
”人” じゃないあたしがあなたを好きだと言った所で何がどうなるって言うのっ!?
いくらどんなに好きでも共に生きる事なんか決して出来ない。未来を紡ぐ事は出来ないのよ。
だから・・・・お願い、ケイン・・・・・・・・ミリィの事を考えてあげて。
彼女とならきっと幸せになれる。だから・・・・・・・」
「俺の幸せは俺が決める事だ。それに・・・・・馬鹿はお前だ」
悲痛な表情で俺を見つめるキャナルに、言葉を続けた。
「お前が ”人” じゃないなんて、今更言われるまでもない。それでも好きになっちまったんだから、
しょうがないだろっ!
言っとくけどなぁ、俺は初めてお前に逢った時に一目惚れしたんだっ。
今更俺から離れるなんて許さないからなっ!!」
一気にまくし立てた俺を、キャナルは驚いたような顔で瞳をパチパチとさせて凝視する。
多分、いやきっと絶対、俺は物凄く真っ赤な顔をしているだろう。
何しろ、一世一代の告白をやらかしたのだから。
「・・・・・・・・・ついでに付け加えれば、船を手放すのが惜しくてこんな事言ってるんじゃないからな。
俺がロストシップの事を知ったのは、お前を好きになったもっと後なんだから」
「で・・・・でも、あたしは・・・・」
「でももへったくれも無い。俺は絶っっっ対にお前から離れない。男の純情を舐めるなよ」
「ケイン・・・・・っ」
キャナルは再びぽろぽろと涙を零した。
「ほ・・・・本当にずっと側にいていいの・・・・?
あたしは・・・・共に年を重ねる事が出来ないのに・・・・・」
「分かってる。
俺はお前にそんな事を望んでる訳じゃない。一緒に居てくれるだけでいいんだ。
そして・・・・俺が居なくなる時も、側についていてくれれば、それでいい」
「うんっ・・・・・・うんっ・・・・・!」
「俺の側に・・・・・・居てくれるか・・・・・・?」
「・・・・・はいっ・・・・・マスター・・・・・っ!」
最愛の人は、極上の笑顔を見せてくれた。
俺の初恋が・・・・・・・やっと実った・・・・・・・・。
いいよな・・・・・ばあちゃん・・・・・・・。
人としては間違った選択なのかも知れない。でも、これが俺の中の真実だから。
船から戻った俺達を待っていたのは、キッチンを破壊しながら作ったであろうミリィ改心の作の料理達と、
「見てなさいっ!
あたしだってこれからあんた達に負けないくらい素敵な人を見つけるんだからっ!」
というミリィの笑顔。
それを見てキャナルはまた泣き出し、俺とミリィはしばらくの間オロオロと焦りながら
彼女を宥める事になるのだった。
END