欲 望
大切な、大切な、俺のいもうと・・・・。
お前を守る為ならば、俺はどんな事でもするよ・・・・。
「・・・・・本気なの?・・・涼・・・・・」
突然の俺の申し出に、両親は困惑しているようだった。
「うん・・・・。俺、全寮制の学校へ進学するよ。集中して医学を学ぶ為にも、その方がいいと思うんだ。
実家だとどうしても甘えがでるからね。学費の事では・・・また、しばらく迷惑かけちゃうけど。
あ、もちろんバイトはするから」
「そんなのはどうにでもなるからいいのよ。子供がお金の心配なんかするもんじゃ無いわ」
「・・・・有難う・・・・」
母の優しい言葉に、俺は素直に感謝した。
「涼・・・、家を出るのは、本当にそれだけの理由か?」
「・・・・他に何かある?」
「い・・・・いや・・・・、それならいいんだが・・・・」
俺と母の会話を黙って聞いていた父が、訝しげに聞いてきた。
当然だろう・・・。俺に遠慮されていると思っているのだろうから・・・・・。
そんな気持ちが無いと言えば嘘になる。でも、俺が決心したのは・・・・。
「それで・・・、この事もう里緒には話したの?」
「いや、まだだよ」
「あの娘、寂しがるわね・・・・」
「・・・・・・・・・」
夜毎、夢を見る。
白い裸体を惜しげも無く晒した華奢な少女の夢。
俺は、少女の流す涙を、怯える瞳を、遮るようにその体を貪る。
紅い跡を付け、奥深くを突き上げて。
少女が力尽きたように俺の名を呼ぶ瞬間、決まって目を覚ます。
柔らかな肌の感触がまだ残っているかのような、リアルな感覚。
起き上がった体に汗が伝い、ポタリと落ちた跡を見る度、罪の意識に苛まれる。
・・・・・・こんな気持ち、気付かなければ・・・・・・。
俺は、この世で最も大切な存在を、自らの手で汚そうとしている。
・・・・・もうこれ以上、側にいる訳にはいかない。
決して・・・・傷付けてはならない。
そう思うのに・・・・。
「涼兄っ! 涼兄っ!」
「どうした? 里緒。そんなに慌てて。」
夕方、学校から帰宅した俺が玄関へ入るなり、先に帰っていた里緒がバタバタと駆け寄って来ながら叫んだ。
「寮に入るって本当!? この家を出ていっちゃうのっ!?」
・・・・・母さん達に聞いたのか・・・・。
「大げさだな、里緒は。何もずっと居なくなる訳じゃないよ。学業に専念する為に、ほんの数年家を空けるだけだよ」
泣きそうな顔をしている里緒に、俺はそう説明した。
「・・・・・・でも・・・・涼兄・・・・・」
ぽろっと一つ涙を零した、里緒の悲しそうな表情を見た俺の心臓がドクンと跳ねた。
・・・・・・・・抱きしめて・・・・しまいそうだ・・・・・。
気を抜けば危うい衝動に流されそうな自分自身をおしとどめて、冷静に振舞う。
・・・・そう。・・・・信頼された、 ” 兄 ” の顔で・・・・。
「泣き虫だな、里緒は。これが今生の別れって訳じゃないんだから、いつでも会えるよ。電話もする」
流れる涙を指で拭ってやると、俯いたままだった里緒はその濡れた顔で俺を見上げた。
「涼兄・・・・。絶対だよ・・・・・・?」
・・・・・・・・心臓を・・・・・・・・掴まれる・・・・・・・・・。
夢の中での煽情的な姿を、思い出す・・・・・。
いっそ・・・・・・・・メチャクチャに壊してしまいたいっ・・・・・・・・・!!!
「・・・・・涼兄・・・・・?」
ハッとした俺に、どうかしたのかという顔で里緒が訝しむ。
「あ・・・ああ、ごめん、ちょっとボーッとして」
「・・・・大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫だよ。心配しなくても」
そう言って笑いかけてやると、里緒はホッとしたように微笑んだ。
そうだ・・・・・俺は、この笑顔を何があっても守ると誓った。
たとえ・・・・何があっても。
無邪気な少女はきっと知らない。
可愛らしく色付く、その唇を。
柔らかそうな、その二つの膨らみを。
すらりと伸びた、その細い手足を。
その全てを、俺がどんな目で見ているのか。
少女は知らない。
その年の春、俺は家を出た。
心の中に抱え切れない想いを秘めたまま。
妹でありながら、妹として見た事など一度も無い愛らしい少女。
お前を守る為ならば、俺はどんな事でもするよ・・・・・・。
END