闇払う陽の標
『左舷翼に被弾!被弾箇所103!出力低下!』
「くっ・・・・!」
『マスター、このままでは・・・・』
「・・・・分かってるわ、キャナル」
ケイン・・・・・・・・
「ケイン、あんまり走ると転ぶわよ!」
「平気だよ!」
ドタッ!!
「ああもう、だから言ったのに」
「うっ・・・・」
「ほらほら、泣かないの。男の子でしょ?」
「うわぁー・・・・。ばあちゃんの船はやっぱりスゴイや!」
「そんなに、この船が好き?」
「うんっ!」
「そう」
「ばあちゃん・・・・。僕、ずっと此処に居たい。あのウチに帰りたくないよ・・・・」
「ケイン・・・・」
「お父さんもお母さんもいらない。ばあちゃんだけ居てくれればいいんだ。
大好きだよ、ばあちゃん」
「ケイン。私が死んだら、この船をお前にあげようか?」
「・・・・ばあちゃんが・・・・死んだら・・・・?」
「そう。私が居なくなったら、この船を貰ってくれる?」
「そ・・・・そんなのヤダよ!ばあちゃんが居なくなるなら、船なんかいらない!
何処にも行かないでよ!」
「人はね、ケイン。誰かを愛する事で、その歴史を脈々と繋いできたの。
人の営みは繰り返されて、やがて未来へと命が受け継がれていく。
何千年も、何億年も。私達も、その流れの一部なの。
気の遠くなるような時間の中では、ほんの一瞬にすぎないかも知れないけれど、
私達は確かに生きていた。あなたはその証よ、ケイン」
「・・・・よく・・・・分かんないや・・・・」
「そうね・・・・。今はまだ分からなくてもいいの。でもね、これからあなたが大きくなって
運命の相手に出逢ったら、決してその手を離さないでね」
「運命の・・・・相手?」
「他の誰にも代わりはできない、あなたの人生にとってかけがえのない人の事よ」
「・・・・どうすれば、その人だって分かるの?」
「目には見えないし、誰も教えてはくれないわ。だけど、きっとあなたには分かる。
その出逢いは、きっとあなたの心が伝えてくれる」
「僕の心・・・・?」
「そうよ。だから、ケイン、自分を信じなさい。自分の心を信じて、どこまでも自由に
進んで行きなさい。そして迷った時は、自分の心に問い掛けるの。答えは必ず
そこにあるわ」
『被弾箇所30%』
「・・・・・・・・」
『マスター』
「・・・・ゴルンノヴァをもう少し引きつけるわ。プラズマ・ブラスト発射準備!」
『了解。サイ・システム接続、エネルギーチャージ。サイ・バリア展開します』
ケイン・・・・あなたにこの船を託す本当の意味を知ったら、きっと怒るでしょうね。
いえ、自分の存在意義の為に、ロスト・シップそのものを嫌悪するかも知れない。
『ターゲットロック、エネルギー上昇中!』
でも、それでも、ケイン・・・・これだけは憶えておいて・・・・
私は誰よりお前を愛しているわ・・・・あなたの存在に、私は何度も救われたの・・・・
逃れられない宿命を背負った私にとって・・・・ずっと・・・・
あなたは私の光だった・・・・
『カウント、5・・・・4・・・・3・・・・』
「・・・・キャナル・・・・あの子を・・・・ケインをお願い・・・・!」
『アリシア・・・・』
『警告。マスターノ精神力原子レベル解放シマシタ』
『ゴルンノヴァ、沈黙シマシタ。ソードブレイカー、システムオールグリーン』
ケイン・・・・ごめんなさい・・・・
「君・・・・だれ・・・・?」
『こんにちは、ケイン。私の名前はキャナル。キャナル・ヴォルフィード』
「キャナル・・・・?」
『はい、マスター』
「・・・・ばあちゃん・・・・。キャナル、ばあちゃんはどこっ!?」
『・・・・ごめんなさい・・・・アリシアは・・・・もう・・・・いないの・・・・』
「いな・・・・い・・・・?」
「・・・・ばあちゃんは・・・・僕にこの船を残してくれたの・・・・?」
『ええ、そうです。とても大切な、あなたに・・・・と』
「・・・・キャナル」
『はい』
「僕と・・・・ずっと一緒にいてくれる?何処にも行かない?」
『もちろんです。あなたは今日から、私のマスターですもの』
「僕が・・・・マスター・・・・。ねぇ、キャナル。ばあちゃんは、喜んでくれるかな」
『・・・・ええ・・・・きっと・・・・』
ケイン・・・・・・・・私の大切な・・・・・・・・・・
END
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アリシアの最期。
断ち切れない皮肉なしがらみ。
切ないです・・・・。