い ざ 勝 負 ! 










「ひとつ聞いてもいいかな」

「ん?」

「ここまでする必要って、本当にあるワケ?」

「もちろんだとも!」

「・・・・・・・・・・」

 トレードマークのくわえタバコを吹かしながら、さも当然とばかりにきっぱりと言いきったハボックに、エドワードは

不審の目を向けながら深い深い溜め息をつく。

 鋼の二つ名を持つ国家錬金術師は、今この時この場所にいる不運を呪った。

 まったく信じてもいない神や仏に八つ当たりしたい気分だった。

 そもそも、どうしてこんな事になってしまったのか。

 自分はただ、折り入って話があるとのヒューズ中佐からの伝言を受けて、所用で東方司令部に来るという彼と

会う為にここへ立ち寄っただけのはずだったのに。

「何の因果で俺がこんな真似を・・・」

 エドワードが毒づくのも無理からぬ事だろう。

 何しろ現在彼が着ている服装は、普段ならまるで縁のない薄紫色の清楚な雰囲気のワンピース。

 しかもフレアの超ミニ。

 加えて足には、ワザと素足の部分を強調させているとしか思えないようなオフホワイトのニーソックス。

 靴は服の色に合わせた嫌味のない紫色で、ビロードに似たあしらいを施された可愛らしいデザインの厚底靴。

 とどめは、見た目よりもずっと柔らかく質の良い髪にかけられた緩やかなウェーブと、その眩しい金髪に良く

似合う真っ赤な細めのリボン。

 おまけに、やるからには完璧を目指すとのハボックの意向により、下着までもが女性用。

 更に追い討ちをかけるように薄化粧までされて、頬に軽く刷かれた朱と唇を彩るほのかなピンクのリップが

絶妙なニュアンスを醸し出し、鏡に映る姿はどこからどう見てもがさつで粗暴な錬金術師などではなく、

可憐な15歳の少女だった。

「うーん。我ながら上出来」

 一人悦に入り満足げな表情のハボックに、思わず殺意が芽生えた。それでも彼を殴り飛ばす事もなく、大人しく

されるがままになっているのには理由がある。

 エドワードは、もう何度目かも分からない溜め息を繰り返しながら、窓の外へと視線を移した。

 衣裳部屋と化しているその室内から望む位置に見えるのは、外の練兵場に設置されたハデな装飾の簡易ステージと、

そこに掲げられている大きな垂れ幕。

 それには達筆な文字でデカデカとこう書かれていた。



『東方司令部主催 第4回 美人コンテスト 争奪!マスタング大佐一日自由権』



 つまり、このコンテストで優勝すれば、あのすかした男を例え一日とはいえ好きにできるというわけなのだ。

 日頃から何かと子ども扱いされ理不尽な仕打ちをされ続けているエドワードにとって、これはまさに絶好の機会。

 だが問題はその中身だった。

 仮にも美人コンテストなのだから男の自分は対象外だろうと、その獲得権利に心を惹かれつつもエドワードは自分には

全く関係の無い事と気にもとめていなかった。

 しかし、ハボックから返ってきたのは信じられない答えだったのである。



「男女問わずってお達しだから、出てみないか?」



 これに慌てたのはエドワードだ。

 参加する気も無いのに無理矢理引っ張り込まれるのも御免だったが、更に辞退したい理由になったのはその参加条件

だった。

『男性は女装必須』

 女装。

 それは新しい自分と出会う為の勇気ある一歩。・・・・なんて冗談じゃない!と逃げ出そうとしたものの、時すでに遅し。

 この話を聞きつけたフュリーやブレダらの有難くない協力によってさっさとエントリーされてしまい、取り消して貰おうと

受付に乗り込めば、一度登録したものはキャンセル不可と断られる始末。

 結局、エドワードは面白がる連中の異様な団結力のもとに参加を余儀なくされた。

 地中に埋まりそうなほど激しく落ち込んだが、もしこれで優勝すれば大佐が思いのままだぞ、と奮起を促され、

心ならずもしぶしぶ承知した。

 そして出ると決まったからには、負けず嫌いの性格がむくむくと頭をもたげ始める。

 よし、それならば!と勢い込んではみたものの、所詮本物の女性と張り合うのだから分が悪すぎる事は分かっている。

 負けて当然、勝てればラッキー。

 それ位の気持ちで、とりあえず用意された衣装の中から適当に見繕って出てしまおうと準備していたところへ、

何やらごちゃごちゃと荷物を持ってきたハボックがやってきて、あっという間にエドワードは美少女へと変身させられた。

 こうして、どこから見ても立派なレディーは完成したのである。




「いようっ、エド!元気だったか?」

「ヒューズ中佐!」

「おつかれさまっス、中佐」

 勢い良くドアが開き片手を上げて入ってきた人物を見れば、それはエドワードをここへ呼びつけた張本人ヒューズ

その人だった。

「ほお、こりゃまたえらくべっぴんさんになったもんだなぁ。まぁ、お前さんは土台がいいからな。当然といえば当然か」

「俺の腕も捨てたもんじゃないっスよ」

 感心するヒューズの言葉に、ハボックは腰に手を当てて満足げにニッと笑った。

「ハボックにこんな特技があったとはなぁ。これでいつでも嫁に行けるな、エド」

「・・・・言いたい事はそれだけか?」

 機械鎧の右手がふるふると震える。

「おっと、そんなに怒りなさんなって。せっかくの美人が台無しだ」

 悪びれもせずにぱちんっとウィンクする男に、がっくりと肩を落とすエドワード。

 きっとこの人には何を言っても飄々と返されてしまうのだろう。

「もういいよ・・・。ところで中佐、俺に話って何?」

「ん?話?」

「・・・・折り入って話があるんじゃなかったのか」

「おお!そう言えばそうだった!」 とポンッと手を鳴らしたヒューズに、「忘れてやがったのか、このオヤジ」 と沸々と

怒りが込み上げてくる。

「わざわざ日にちまで指定して俺を呼んだくせに、どういうこった!」

「いやぁ、悪い悪い。それだったら、もう済んだんだ」

「済んだ?何で?」

「話ってのは、他でもないコレの事だったから」

「これ?」

「そう、コレ」

 ヒューズが指差した先にある物はエドワードの着ている薄紫色のワンピース。

「つまり、お前さんをこのコンテストに参加させようと思ったんだな、これが!そんな事より見てくれよこれ!うちの

エリシアちゃんにうさぎの耳つき服を着せてみたんだけど、これがまた悩殺されるほど超可愛くてさぁ!」

 いつも胸ポケットに忍ばせている娘の写真をすかさず取り出し、これまたいつもの娘自慢を嬉しそうに話し始めて

わはははは!とヒューズが笑う。

 最新の作品と思われるそれには、彼が目の中に入れても痛くないほど可愛がっている小さな女の子が、うさぎの

耳のついたふわふわの着ぐるみを身に付けて愛くるしい笑顔で写っていた。

 ・・・・何かの陰謀に違いない。

 人は見かけによらないを地で行く見事な手腕を披露したハボックと、ひとクセもふたクセもありそうな親バカを

目の前にして、エドワードは人間不信の一歩手前だった。




「それにしても、このコンテストってもう4回目になるんだろ?俺こんなの全然知らなかったけど」

 美人コンテストなどと、これまでに一度も耳にした事のない催しを疑問に思ったエドワードは、会場となる練兵場

までの道すがら、エスコートと称して先程の部屋から同行したヒューズに聞いてみる。

「知らなくて当然だ。年に一度の開催だし、これは最初セントラルで行われていたものだからな。それが途中から

各司令部の持ち回りになって、今年は東方司令部という訳だ。もとの主旨はお互いの親睦を深める為だったらしいが、

今ではそんなのただの名目で、娯楽の少ない連中の数少ない楽しみと化してる。一説によれば大総統の趣味って話も

あるらしいぞ」

「そ、そうなんだ・・・・」

 そもそも軍司令部内でというのも不可解な話だが、美人コンテストで親睦を深めるというのは何かが違うのでは。

 ちなみにミスコンではない為、既婚者もOKらしい。これも男女問わず。っていうか、仕事しろ。

 エドワードが理解不能な大人達に頭を抱えながら歩いていると、何やら違和感のある視線を感じた。

 纏わりつくような、絡みつくような。

 それだけではない。

 今の今まで気付かなかったが、よくよく周囲を見てみれば、顔を赤くした複数の男達が皆こちらをじっと凝視めている。

 エドワードが歩みを進めれば、彼らの顔も同じだけ動くのだ。

「気のせいかな、中佐。何かじろじろ見られてるみたいなんだけど・・・・」

「そりゃトーゼンだ。何しろ今のお前さんは、泣く子も振り向く天下の美少女だからな」

「なっ・・・!」

 自分の現在の姿の事をすっかり忘れていて思わず真っ赤になるエドワードに、ヒューズは意味深にニヤリと笑った。

「気をつけろよエド。ここにいる狼達は日頃から飢えてるからな。いわばお前さんはその群れの中に放り込まれた

か弱くない羊だ。何かあったらロイが泣くから、くれぐれも隙を見せるなよ?」

 変な心配の仕方だ。

「あのなぁ・・・・。大佐が泣くかどうかはともかく、この状況を作ったのは一体どこのどなたでしたっけねぇ」

 か弱くないと思っているなら、ほっといてくれればいいのに。

 隣を歩く男の勝手な言い分に、こめかみがヒクつく。

「ま、そう言うなって。どうせお祭りなんだから気軽に楽しめばいいんだよ。それで勝てればしめたもんだろ?」

 ヒューズはあっけらかんとした表情でエドワードの肩をぽんぽんと叩いた。

「そりゃそうだけど・・・・。そういえば、その肝心の勝者権利なんだけどさ、なんで大佐なわけ?どういう基準で

そうなってんの?」

「なぁに、簡単な話さ。軍部内でアンケートをとったんだ。賞品は誰がいいですか?ってな」

「なるほどね・・・・」

 エドワードはさもありなんとばかりに、うんうんと大きく頷いた。

 あらゆる意味で噂の絶えない人物だ。女性ならこのチャンスにモノにしようと目の色を変えるだろうし、男性なら

日頃の鬱憤を晴らすいい口実になるだろう。

 賞品が賞品だけに今からその過熱ぶりが目に浮かぶようで、エドワードは 「俺を巻き込むなよな」 と少しだけ

げんなりとした様子で外へと向かった。




 建物内を通り抜けて裏手にある練兵場へ進んでいくと、もう既にほとんどの人間が集まっているらしく、広大なその

敷地からは人々のざわめきが音となって次々と流れ込んできた。

 これだけの人数が普段どこに隠れているのか、と思わずにはいられないほどの黒山の人だかりである。

 こりゃ一種の晒しものだな・・・・と呆れながらエドワードが人込みを眺めていると、急に腕をぐいっと引っ張られた。

「エド、出場者はこっちだ」

 ヒューズに促されてそちらへ歩いていくと、他の出場者と思しき面々がステージの袖辺りでひとかたまりになっていた。

 流石に美人コンテストと銘打つだけのことはあって、いずれ劣らぬ美貌の持ち主達が今か今かと自分の出番を待って

いる。

 まぁ、中には受けを狙った男性諸氏もいたが、そこはご愛嬌。

「兄さん!」

「待ちかねたぞ、エドワード・エルリック」

「おう、アル。少佐も。こんなとこにいたのか」

 運営管理の指示に従いながらウロウロしている時、自分の名を呼ぶ声が聞こえてエドワードがその方向へ振り向くと、

そこには弟のアルフォンスがアームストロングを従えて立っていた。

 今朝がた連れ立ってきたものの、早々にハボックによってエドワードが拉致られた為、アルフォンスは彼と共に兄の

準備が整うのを待っていたのである。

 コンテストの主旨にいささか戸惑いはあったもののやはり好奇心には勝てず、嫌がる兄の助けを呼ぶ声をも無視し、

ずるずると引きずられていく様を笑顔で手を振り見送ったアルフォンス。

 兄が弟の黒い影を垣間見た瞬間であった。

「うわー!兄さん、凄く綺麗だよ!これなら優勝間違い無しだね!」

 兄の出で立ちを見た弟は、まるで乙女のように瞳をキラキラと輝かせて言い放つ。

 もちろん鎧姿のアルフォンスに瞳は無い為、表現するならそんな雰囲気というだけだ。

「・・・・褒められても嬉しくない・・・・」

 弟からのうっとりとしたキラキラ光線をその身に浴びて、エドワードの兄としての矜持は脆くも崩れ去ろうとしていた。

「そんな事はないぞ、エドワード・エルリック!」

 アームストロングが、今にも泣きが入りそうなエドワードの両肩をがっちりと掴む。

「え?あ、あの・・・・少佐?」

「美しさは人の心を癒し和ませるもの!堂々と自信を持たなくてはいかん!見よっ!この我輩の肉体美をっ!

コンテストに出られず、多くの観衆にこの美しさをご披露できぬとはまことに残念ではあるが、お主に勇気と誇りを

取り戻させる為なら、このアレックス・ルイ・アームストロング、喜んで裏方に回ろうぞっ!さあ!思う存分見るが良いっ!」

 ポージングをとり、ムンッ!とばかりに筋肉を盛り上げた彼の軍服がぶちぶちと音を立ててちぎれていく。

「・・・・少佐って、もしかして出るつもりだったの?」

「・・・・恐ろしい事態を寸前で回避させた俺の努力を労ってくれ・・・・」

 ぼそっと呟いたエドワードの横で、ヒューズは遠い目をしながら力なく笑った。

 中佐、ほんっとーに有難う。

 筋肉の女装という想像するのもおぞましい阿鼻叫喚の地獄絵図を見ずに済んだと、15歳の錬金術師は心の中で

その功労者に盛大な拍手を送らずにはいられない。

 ふと、エドワードの背後でジャリッという砂を踏む足音がした。

「何やら奇妙な小芝居集団が目に入ると思ったら、こんなところで何の余興かね?鋼の」

 今だ自分の世界に入り込み出てこようとしないアームストロングを尻目に、その人物はいつもの不敵な笑みを

浮かべてそう言った。

「・・・・よう、大佐」

 今日は無礼講だから、と手を上げて部下の礼を制しながら、徐々にエドワード達の方へと近付いてくる。

 ある意味今日の主役たるロイは、眼前の着飾ったエドワードの姿を頭のてっぺんから足のつま先まで、まるで

舐めまわすような視線で凝視めた。

「まさか君まで参加するとはね。それにしても・・・・随分と美しく化けたもんだな。思わずそそられてしまうよ」

「うわっ !?」

 顎に手を当てられて、エドワードの顔がくいっと上向く。

「さっ、触んなっ!」

 途端に赤くなってしまった顔を逸らせるように、ロイの手をパシッと払いのけた。

「これはまた手厳しい」

 ククッと可笑しそうに笑う男に、カーッと血が昇る。

 ・・・・何だ?この感じ・・・・。

 さっきまで誰の目に触れても何とも思わなかったのに、今は心臓が破裂しそうにばくばくしている。

 エドワードは思いもよらない自分の変化に内心うろたえた。

 何が違う、とは上手く説明できない。それなのに、明らかな違いを肌で感じる。この男の瞳は別だと。

 無意識にワンピースの裾をぎゅっと握っているエドワードに気付いたロイは、柔らかく目を細めて薄く微笑む。

「そろそろ時間だな。ああ、鋼の。今日の私は勝者への贈り物でもあり特別審査員でもあるんだ。またステージ上で

会おう」

「特別・・・・審査員?」

「ああ、そうだ」

 立ち去りかけたロイが、エドワードに片手を上げてみせる。

「君の健闘を祈っているよ。せいぜい頑張りたまえ」

 値踏みされる側の人間に、一体何をどう頑張れというのか。

 エドワードは、本気とは思えないエールを口にしてさっさと行ってしまったロイの背中を目で追う。

 本人が審査員として出るなどとは聞いていない。

 一応読んでおけと前もって渡された参加要綱一覧にもそんな記載は見当たらなかった。

 たかがお祭りでそんなものがあるのもかなり疑問だが。

「なぁ、中佐。特別審査員って何を・・・・」

 するんだ、と言いかけたエドワードは、落ち着かない様子で明後日の方向を見ているヒューズに目を据わらせた。

「中佐・・・・」

 だらだらとイヤな汗をかき始めたヒューズは、なかばヤケクソといった感じで一気にまくしたてた。

「いやー、言おう言おうと思ってたんだけどすっかり忘れててさー。実はこのコンテストって、その特別審査員の

独断と偏見で優勝者が決まるという、何とも微笑ましくも素晴らしい催しなんだなこれが!わははははは!」

「特別審査員の・・・・独断と、偏見ーーーーっっっ !?」

 って事は。

「つまり、大佐の一存で全てが決まると・・・・」

「そ、そうなるかなー」

「そんなっ! それじゃあ兄さんは・・・・」

 例えるならガーンッという擬音とともにアルフォンスの顔が青褪める。よほど兄の優勝を願っていたのだろう。

 それもどうかと思うけれど。

「・・・・ふざけんな。最初っからそうだと分かってたら、誰がこんなもんに出たりするもんか。俺は降りる」

「ちょ、ちょっと待てよエド!」

 怒りのオーラを立ち昇らせて引き返そうとするエドワードを、ヒューズは焦りながら必死で引き止めた。

「離せよっ!大体なぁっ、あの大佐が自分を自由にさせる権利を、まかり間違っても俺に与えるわけがないだろうがっ!

なにが健闘を祈るだ!笑わせんなっ!」

 ぜいぜいと息をつきながら暴れるエドワードを何とか宥めようと、ヒューズに加えアームストロングまでもが押さえに

かかる。

「おい落ち着けって!とにかくっ、一度エントリーされちまったもんはもう出るしかないんだ!たかが数時間の辛抱だ!

ここはひとつ!なっ?頼むっ!」

「そうだぞっ、エドワード・エルリック!ここはグッとこらえて大人になるのだ!」

「くっ・・・・」

 大の大人が二人がかりで少年、いや少女を説得する様子に、周囲が何事かとざわめき始める。

「これ以上騒ぎが大きくなるのはまずいだろ。なっ?」

 あまりの理不尽さに怒りは収まらない。だが。

「・・・・・分かったよ。でりゃあいいんだろ、でりゃあ」

 確かに中佐の言う通り、ほんの少しの間だけ我慢すればそれで終わるのだ。ここは自分が大人になって・・・・・。

「それでこそエドワード・エルリック!我輩は嬉しいぞ!」

 ベキバキボキゴキッッッ!

「ふぎゃああああああっっっっ !!!!」

 爽やかな風が吹き抜ける練兵場に、同情を禁じえない悲痛な叫びがこだました。




「レディース!エン、ジェントルメン!大変長らくお待たせ致しました!これより、東方司令部主催!第4回美人コンテスト!

マスタング大佐は誰の手にっ!? を開催致します!」

 ウオオオオッッッ!という歓声に、会場を包む空気がビリビリと震えた。

「・・・・何か、タイトル変わってるし」

 アームストロングの手によってみしみしと骨を軋ませられたエドワードは、不屈の精神と根性でどうにか立ち直り、

参加者の列に並びながら呆れたように呟いた。

「いいってことよ。祭りなんだから!」

 隣のヒューズが何度目かの聞き飽きたフレーズで答える。

「どうでもいいけど、何で中佐がここにいるんだよ」

 既にコンテストは始まっており、エントリーした者達は次々と名前を呼ばれて舞台上に上がっている。

 他の面々は誰一人として付き添いなど連れてはいない。

 ヒューズがここまでエドワードに付いてくる理由は何も無いはずなのだが。

「まぁまぁ。俺はほら、お前さんのエスコートだから」

「・・・・ふうん。別にいいけどね」

 ここからは見ることのできない観客席からは、おーっ、とか、わーっ、とか、ひーっ、とか、ぎゃーっ、という声が響いてくる。

 良くも悪くも盛り上がっているようだ。

 ヒューズとたわいもない話をしている内にコンテストはどんどんと進行し、どうやらエドワードの順番が回ってきたよう

だった。

「それではいよいよラストの方!エントリーナンバー25番!今回の参加者の中で最年少の国家錬金術師!

エドワード・エルリックさんです!」

「じゃあな、中佐」

「おう!頑張ってこいよ!」

 だから何を頑張るんだっての。

 ヒューズにまで意味の無い応援をされながら、エドワードは司会の声に応えて舞台へと上がっていく。

 本人の言っていた通り、ステージの反対側には、ロイが品定めよろしく、いつものポーズで椅子に座っていた。

 こんなものはさっさと終わらせてしまうに限る。

 そんな投げやりな態度で舞台中央まで進んだ直後、異変は起きた。

 会場中が、しんと静まり返っている。

「・・・・・・?」

 先程まであんなに騒がしかったのに。

 エドワードは首を傾げた。

 見ればほとんどの男達が、観客席よりも高い位置にいる少年を見上げたまま、口をポカンとあけている。

「な・・・・なに?」

 何がどうなっているのか、エドワードにはさっぱり訳が分からない。

 気が付けば司会進行の者までが、何かに魂を抜かれたように一点を凝視めたまま呆然と立ち尽くしていた。

 奇妙なのは、固まってしまったその誰もが頬を赤らめている事。

 自分の出番が終わり、後ろに数歩下がって一列に並んでいる24人の参加者達。

 観衆の反応にたじろぎ思わずキョロキョロと辺りを見回したのだが、あろうことかその参加者の中の男までもが

自分の方を見て真っ赤になっている。

 事態を把握できないエドワードにとって、不気味な事この上ない。

 そんな中、ただ一人ロイだけが、まるでその状況を楽しむかのように余裕の笑みを見せていたのだが。

「鋼の」

 小さく声のする方向に目をやると、ロイがしきりに右手の人差指を下に向けてチョイチョイと上下に動かしている。

 同時にその唇がゆっくりと動く。



『 下 を 見 ろ 』



「・・・・下を見ろ?」

 ロイの唇を読んだエドワードは眉を寄せて訝しく思いながらも、言われた通りに視線を足下に向ける。

「何だよ、下がどうしたって――――」

 自分の足は見えなかった。

 かわりに目に飛び込んできたのは、ふわふわひらひらと揺れる超ミニで薄紫色のワンピース。

 柔らかなフレアの裾が、いたずらな風に押し上げられて優雅に舞っている。

「う・・・・うわわわわっっっっ !!!???」

 エドワードはあまりの恥ずかしさに両手でバッとスカートを押さえた。何故か内股で。

 途端に会場のあちこちから聞こえてくる、ブシュッ!という音に交じってバタバタと人の倒れる音。

 それに重なる女性の悲鳴。

 しかしその声が驚きというよりも、むしろ憐れみのように聞こえるのは、きっと気のせいではないのだろう。

 語尾が何となく疑問形で尻上がりだったから。

 男達は皆一様に顔を押さえ、血液を大量に吹き上げている。一種の惨劇と言えるかも知れない。

 顔から火を吹きそうな勢いで真っ赤になるエドワードの初々しい仕草。彼らはそこに男の永遠のロマンを見出した。

 その全員が例外なく前屈みなのがとても物悲しい。というか痛々しい。




 み・・・・見られた・・・・。

 スカートの中を。しかも女性用の下着を。ちなみに白いフリフリレースのヒモパン。

『実録!女性の内股はこうしてつくられる!』

 ぐるぐると混乱した頭に何かの見出しになりそうなタイトルを浮かべて半泣きのエドワード。

 それでも、ここからダッシュで逃げ出す事をしなかったのは、単にそこまで頭が回らなかったせいであるが。

 人生における初体験は、彼にとっては、とてつもない緊急事態だったようだ。

「はっ・・・・い、いかん!私とした事が!」

 漂う空気がピンク色に染まりそうな中、いち早く復活を遂げたのは軍人魂もあっぱれな進行役だった。

 彼の背後には 「俺がやらねば誰がやる!」 とでも言いたげな、燃え盛る炎が見えるような気さえする。

「ごほんっ!えー・・・・途中思わぬハプニングがございましたが、これにて出場者全てが勢揃い致しました!

これより審査に移りたいと思います!結果が発表されるまでの間、しばしの休憩を・・・・え・・・・?」

「え?」

 司会の男は再度固まった。

 少年の頭上に影が落ちる。

 見上げるほどの長身。

 エドワードの隣には何時の間に近付いてきたのか、彼を見下ろすようにしてロイが立っていた。

 その力強い腕は、何故かエドワードの鋼の右手を軽く掴み上げたまま離そうとしない。

「た、大佐・・・・?」

「あ、あのー、マスタング大佐?こちらではなく審査員室の方へ―――」

「必要無い」

 ロイが男の言葉を遮る。

「は?・・・・あの・・・・」

「聞こえなかったのか? 必要無いと言ったんだ。優勝者は既に決まっている」

 ロイはまるで荷物でも持ち上げるかのようにひょいっとエドワードを肩に担ぎ上げると、そのままスタスタとステージの

袖へと歩いてゆく。

「という訳で、これは貰っていくぞ」

「お、おいっ!ちょっと?」

 エドワードの抗議の声も届かない。

 もちろんそのままの格好では、そのワンピースの短さゆえに彼のお尻が丸出しになってしまうので、自分の腕で

がっちりとガードする事も忘れない。

 男の仕事に抜かりは無かった。

 最も、今のエドワードにはそんな所にまで気を回す余裕は少しも無かったが。




 あれよあれよという間に持ち去られた美少女。いや、錬金術師。

「え、えー・・・・それではめでたく優勝者も決まりました所で、これにて閉幕とさせていただきます・・・・」

 またしても静まり返った会場に、司会の虚しい声がやけに大きく響き渡った。




「なっ、何すんだよ!さっさと降ろせよ!」

 ロイの背中をバシバシと叩く。今の自分の姿を思うと、その恥ずかしさにいたたまれず憤死しそうだった。

 エドワードを担いだ男は、相変わらずスタスタと歩きながら何処かを目指している。

 道筋を辿ってみると、どうやら最初の衣裳部屋へと連行されようとしているらしい。

「やれやれ、少しくらい大人しくしていられないのか?あまり暴れるようだと、このまま引き返して飢えた狼の中に

放り込むぞ。尤も、発情した野獣どもに服をひん剥かれて陵辱されてもいいというのなら、私は止めはしないが」

「ぐっ・・・・」

 この姿勢では窺えない、きっと笑っているだろう男の事を苦々しく思いながらも、エドワードはそれ以上の言葉を飲み込む。

 先程の光景を思い返して、思わずぶるっと鳥肌が立つ。

 自分は欲望の対象となっていた。認めたくはないが、そう思わざるを得ない。

 エドワードの背筋に冷たい悪寒が走る。

 例え相手が何人だろうと、少なくとも此処にいる雑魚連中に負けるとは思っていない。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 狙いが違えば、その動きもおのずと変わってくる。

 もちろん、こんな場所で彼の言う通りの事が起こると本気で思っているわけではないが。

 もし・・・・もしも、本当に自分自身が目的とされて、あれだけの男に挑まれたとしたら。

 きっと、勝てる見込みは無い。

 ぎゅっと目を瞑るエドワード。

 その現実は、あまりにも大きく圧し掛かってくる。

「・・・・・・・」

 急に大人しくなった少年にロイが何かを言いかけたが、その行動が彼に伝わる事は無かった。




「いよっ!ご両人!」

 ロイに連れられて衣裳部屋へと戻ると、そこにはアルフォンスをはじめ、ヒューズやアームストロングやハボックといった

お決まりの面々が既に待ち構えていて、ニヤニヤと意味深に笑っていた。

 さすがに見られるのは恥ずかしいだろうと思ったのか、部屋の少し手前でロイはエドワードを降ろしてくれた。

「いやあ、エド。優勝おめでとう!君の美しさはまさに荒野に咲いた一輪の花だった。俺も鼻が高いよ、うんうん」

 でも、うちの奥さんには負けるけどな、わはははは! といつもの如く惚気ながら、ヒューズが嬉しそうにエドワードの両手を

握ってぶんぶん振り回しながら言う。

「ヒューズ中佐・・・・。俺に何か恨みでもあんのか?」

 思わずこっちが恨みがましい視線を送ってしまう。

「まぁまぁ。とにかく、これでお前さんは優勝者としての権利を手に入れたんだ。素直に喜べって」

「そうだぞ、エドワード・エルリック」

「おめでとう!兄さん!」

 アルにまで無邪気にそう言われて、エドワードはチッと舌打ちしながらも、とりあえず気を取り直す。

 そうだ。何はともあれ、結果として自分は権利を勝ち取ったのだ。

 エドワードは自分の後ろに立っているロイをくるっと振り返る。その顔は大いなる期待に満ち満ちていた。

「異存は無いよな、大佐」

「ああ、もちろんだ」

「それじゃ、早速――――」

「そうだな、好きにさせて貰うとしよう」

 ロイの両手がエドワードの肩にポンと置かれる。

 焔の二つ名を持つ錬金術師は、それはそれは爽やかな笑顔でニッコリと微笑んだ。

 心なしか歯までキラッと光った気がする。

「は? 何言ってんの? それは俺の権利・・・・」

「では無いのだよ、鋼の。残念ながら。ここをよく見てみたまえ」

「・・・・?」

 そう言ってロイが指し示したのは、今日の為に作られたと思われる一枚の宣伝ポスター。

 目を凝らしてじっと見るエドワード。

「何だよ、別に何も・・・・」

「もっとよく見てごらん。ほら、ここだ」

『 東方司令部主催 第4回 美人コンテスト 争奪!マスタング大佐一日自由権 』

 その文字をゆっくり丁寧に読んでいくと・・・・。

『 ―――――マスタング大佐 (に) 一日自由 (にされる) 権 』

「なっ! なにーーーーーーーーっっっっ !!!!????」

 あろうことか、大きく太い文字の間に、本当に小さい小さい文字でそう書かれている。

「詐欺だっ! どうせ後から書き足したに決まって――――」

「まさか。ちゃんとした印字だよ」

 信じがたいが事実であった。エドワードの肩がわなわなと震える。

 誰か嘘だと言ってくれ。

 エドワードはキッ! とヒューズ達を睨んだ。

「・・・・・謀ったな?」

 言われた全員の目が泳ぐ。

「い、いやぁ〜、お前さんには悪いとは思ったんだが、ロイが俺の娘の話を三時間まとめて聞いてくれるっていうからさぁ」

「わ・・・・我輩も気は進まなかったのだが、この肉体美を余す所無く写真に納めた個展には如何とも抗いがたく・・・・」

「可愛い彼女、紹介してくれるって・・・・」

「女性にモテる方法を・・・・」

「うっうっうっうっ」

 その場に居る者が全てをことごとく吐露した。

 全くもって頭が痛い・・・・。

 とどのつまり、どう転んでも自分は参加させられるように仕組まれていたと。

 初めから。

 あの、中佐の伝言を聞いたときから。

 ・・・・伝言?

 あの時。セントラルに電話した俺に、アルの様子も知りたいから、と中佐に言われてアイツにかわった。

 その後、中佐が言い忘れた事があったとアルに言われて・・・・。

「・・・・アル。お前もか?」

 兄の問いに、アルフォンスの鎧の体がぎくっと揺れる。何処からか、ニャー、という猫の鳴き声が聞こえた。

「アル・・・・」

「ごっ・・・・、御免なさい、兄さん! だって協力したら、今後いつでも拾った猫を大佐が飼ってくれるって・・・・っ!

背に腹は変えられなかったんだ!」

 うわーーーっ! と、お腹の辺りに手を当てて、涙も出ないのに泣き崩れるアルフォンス。

 エドワードは眩暈に襲われた。

 背に腹は、って・・・・俺は猫以下ですか。

「買収なんて、きたねーぞ、大佐」

「人聞きの悪い。私は皆に公正な取引をお願いしたまでだよ。君が参加できるように頼みを聞いてくれたら、それ相応の

礼をしよう、と」

「それを買収っていうんだよ!」

「仕方がないな。私の知らない所で勝手に景品にされて、それが上層部からのお達しとなればこちらに拒否権は全く無い。

だったらせめて小細工してでも何ででも、私の当然の権利として欲しいものを主張するのが人情というものだろう?」

 喰えない男がいけしゃあしゃあと並べ立てる。

 エドワードの頭に抑えきれないほどの血がゆっくりと昇ってゆく。

「・・・・って事は、それによってどうなるかって事も、全部納得ずくだったって言うのか?最初から・・・・全部・・・・」

 思い出すだけで腹立たしい。自分はまるで女のように扱われたのだ。男の欲望をまざまざと見せつけられて。

 あんな場所で。複数の目の前で。

 ロイが少しだけ困ったように眉を顰める。

「予想もしていなかったとは言わない。それに関しては申し訳なかったと思ってるよ。だから万が一にも君に危害が

及ばないように、ずっとヒューズを付けておいたんだ。君に何かあったら、私はきっと平静ではいられないからね」

「・・・・・・・・」

 当のヒューズを見ると、彼は片手でスマンとエドワードに向かって詫びた。

「でも、俺のエスコートもまんざらじゃ無かったろ? そういう訳なんで勘弁してくれや」

「中佐・・・・」

 別に、中佐が悪い訳じゃない。

 僅かにでも怒りが冷めたのか、エドワードがほんの少しだけ逡巡する。

「尤も・・・・」

 しかし。

 尊大な態度の男から殊勝な言葉が聞けたと思ったのもつかの間。

「あんなに見事に風が吹いて、君の可愛らしい下着が見えてしまったのは大きな誤算だったがね」

 何故か嬉しそうなロイの物言いに、カアアァァァッとエドワードの顔が赤くなった。

 ワザとなのか !? ワザとなんだな !?

 迂闊にも情に絆されてしまいそうになった自分が情けない、と心の中で叱咤する。

「・・・・それ以上言ったらコロス」

「君には無理だろう」

 部屋中に不穏な空気が漂い始め、見ている方はハラハラさせられて気が気ではない。

 そんな一触即発の中、命知らずにもヒューズがままよとばかりに声を上げた。

「あのさー、お取り込み中悪いんだけど、そんな事してる暇があったら少しでも早く獲得権利を行使した方がよっぽど

建設的だと思うんだが、どうだろう」

「っ・・・・・中佐っ!余計な事言うなっ!」

 まさに危機的状況。追い詰めるようなヒューズの言葉にエドワードは焦った。

「・・・・それもそうだな。という訳で、鋼の。せっかくのチャンスをみすみす逃すほど私は愚かではないよ。潔く腹を

括りたまえ」

 言いながらロイは軍服の上着をおもむろに脱いだ。

「うわっ !? ちょっ・・・・離せよっ!」

 またしても抗議の声は届かず、エドワードはロイの手によってひょいっと持ち上げられる。だが先程と大きく違うのは

その抱え方。彼が選んだのは、いわゆるお姫様抱っこというやつだった。

 もちろんこの格好でもお尻が丸見えなのは言わずもがななので、脱いだばかりの上着をエドワードの腰に

巻きつけてからの行動である。

 男の仕事ぶりは何処までも見事であった。

 その外見からは想像も出来ない強さでがっちりホールドされたエドワードがいくらどんなに頑張っても、その腕が

解ける事は決して無かった。

 恋は偉大である。

「ではヒューズ、後は頼んだぞ」

「おー、任せとけって。しっかりやれよ」

「お主の幸せを願っているぞ、エドワード・エルリック」

「兄さん、僕の事は心配しなくていいからね」

 次々とかけられる無責任な言葉に重なって、意味も無く拍手が送られる。

 その光景は、さながら恥ずかしがって暴れる新妻を絶対逃がすまいとする夫が、めくるめく貴方の知らない世界を

繰り広げる為の愛の巣へと、有無を言わせず連れ込もうとする新婚夫婦のようだった、というのは、この場に

居合わせた者数名の後日談。

「てめぇらっ!呑気に見送ってんじゃねーーーーっっっ !!!」

 飢えた狼で、発情した野獣なのは、この男だろ!

 何をどうあがいても、罠にかかった錬金術師の叫びが届く事は無かった。




「しかし、何だな。あそこまで素直じゃないと、いっそ気持ちいい位だな。恋愛するには相当の根気が必要だろう。

ロイも大変な奴に惚れ込んだもんだ」

 嵐を巻き起こす二人の錬金術師が去った後の衣装部屋で、ヒューズはタバコを吹かしながら妙にしみじみとした

口調でそう言った。

 コンテストの後片付けがまだ残っている為ハボックらは練兵場へと向かってしまい、ここにはアルフォンスと

ヒューズの二人だけである。

 何故ヒューズは行かなかったのか、という問いは、今更なのであえて口にはしない。

「何言ってるんですか、中佐。兄さんは凄く素直な人ですよ?」

 彼の兄への評価に反論するように、アルフォンスは小さく笑った。

 手には、さっきまで鎧の中に入れられていた真っ白い猫が乗せられている。

 その柔らかな喉元を優しく撫でてやれば、愛すべき生き物は嬉しそうにゴロゴロと音を鳴らす。

「兄さんはあの通りの人だから誤解されがちだけど、いつだって自分に正直に素直に生きている。ただ、その表現の

仕方が分かりづらいだけです」

「・・・・なるほど。それはそうかも知れないな」

 言われた人物の姿を思い浮かべて、ヒューズはまるで愛しいものでも見るかのように微笑んだ。

「それにしても、本当にあれでよかったのか? たった二人っきりの兄弟が離れていってしまうのは、やっぱり寂しい

もんだろ。ましてや相手が相手だ。いろいろと不満もあるんじゃないのか?」

「大丈夫ですよ、中佐」

 安心してしまったのか、猫はアルフォンスの膝の上で丸くなり気持ち良さそうに眠っている。

「何があっても、僕達が兄弟である事に変わりは無いんですから。それに・・・言ったでしょう? 兄さんは素直な人だって。

それが誰であろうと、一度気持ちが固まってしまえばその想いを隠す事はもうしない。つまり、相手次第と言う訳です。

どれだけ真剣に、誠実に想ってくれるか。もしも、あの人にそれが出来なかったら・・・・その時は、僕が綺麗さっぱり

跡形も無く消しちゃいますから。クス・・・・クスクスクスクスクスクスクスクス」

「そ・・・・そうですか・・・・・」

 何か、触れてはならない黒いものを嗅ぎつけたヒューズは、それ以上の追及はもう止めようと密かに誓った。




 果たして勝利を勝ち取ったのは、いったい誰だったのか。







                                                             END





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             微妙にタイトルと合ってないような気がするけど(・・・微妙に?)
             ま、いっか。(爆)
             ちなみにこの話は、違う所にこれまた微妙に続きます。(笑)
             今度は全開なロイxエドで!